油絵具

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油絵具(あぶらえのぐ)は油彩(油絵)に用いられる絵具顔料乾性油で練り上げたものは既に油絵具であると言ってよい。油が酸化し硬化することにより定着する。また近年では、界面活性剤の添加により水での希釈や水性絵具・水性画用液と混合が可能な、可水溶性油絵具(Water-mixable Oilcolor)も存在する。

組成[編集]

顕色成分としての顔料と乾性油を主成分とする媒材、バインダー、ビヒクルから成る。理想を言えば媒材は乾性油のみということになるが、現実には顔料や乾性油を調整しなけれならず、各色の乾燥速度を調整する目的で乾燥促進剤などの助剤が使われることが多い。この他に、調整の目的で形成助剤や樹脂などの助剤が添加される。ただしこれは使用者の利便に対する配慮でもある。特に国産メーカーの製品は顔料や乾性油などを調整し初心者に対して配慮する傾向が強い。

乾性油[編集]

リンシードオイル、ポピーオイルなどを用いる。古来から様々な加工法が研究された。加工油にはスタンドオイル(主にスタンドリンシードオイル)、サンシックンドオイル、ブラックオイルなどがある 。

樹脂[編集]

天然樹脂では、ダンマル樹脂、マスチック樹脂(乳香)[1] 、コーパル樹脂などを用いる。合成樹脂では、ケトン樹脂、石油樹脂、アクリル樹脂などを用いる。

揮発性油[編集]

ペトロール(精製石油)やターペンタインなどのソルベント(溶剤)のことである。シュミンケの『ムッシーニ天然樹脂油絵具』のようにワニスが添加された油絵具はソルベントを含む。


性質[編集]

油絵具は空気中の酸素と結合し乾性油が重合することによって固化する。油絵具における酸化による硬化を乾燥という。乾燥時間が数日程度と長い為、絵具の微妙な混合(混色)やぼかし、拭き取りなどが容易であり、明朗な光沢のある濡れ色をした画面の作成に向く。

透明性・不透明性[編集]

油絵具は、乾性油や樹脂の屈折率の高さから総じて透明性の高い発色をする。この透明性は「透明水彩絵具」の透明性と原理が異なる点に注意。油絵具全色が透明なのではなく、油絵具にも不透明色は存在する。油絵具の不透明色の不透明性は「ガッシュ」、「アクリルガッシュ」などの不透明性とは一線を画し、独特の存在感を呈する。ただし、体質顔料の添加によって透明感が演出されている場合がある。ただし、現代的有機顔料は着色力がこれまでになでに無い程強く、絵具化しても顔料が高濃度では極めて暗く見えるものが多い為、調整は自然な措置である場合もある。また顔料自体を(工業的に)微粒子に仕上げ透明性を高める方法も存在する。

透明性の高い絵具の顔料としては、アリザリンレーキ等のレーキ顔料やアントラキノン系、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系などの有機顔料がある。有機顔料による油絵具は基本的に透明性が高い。透明性の高い無機顔料も存在する。コバルト黄亜硝酸コバルトカリ(「オーレオリン」)、水和酸化クロム(「ビリジアン」)、マンガン青硫酸バリウムに定着させたマンガン酸バリウム)、合成ウルトラマリン(:「フレンチウルトラマリン」)、コバルト紫などがそれである。なお透明色に不透明な白色などを混合すれば不透明性を高めることが可能である。

不透明性の高い絵具の顔料としては、「バーミリオン辰砂)」、カドミウム赤・カドミウム橙・カドミウム黄(:硫化セレン化カドミウム、硫化カドミウム、硫化カドミウム-硫化亜鉛、他)、酸化クロム緑、「コバルトターコイズ」(Co,Li,Ti,Znの酸化物固熔体,Co,Ni,Ti,Znの酸化物固熔体 など)、錫酸コバルト(「セルリアンブルー」)、酸化鉄(マルスレッド、マルスイエロー、マルスブラック等)、チタン白(「チタニウムホワイト」)等がある。ただし、コバルト系顔料は錫酸コバルト等のように若干不透明感を欠くきらいがある。また不透明性の高い有機顔料の不透明性は白色顔料添加による場合もある。

物体性[編集]

物体性のある塗膜は油絵具の特徴であり、物体性のある塗りと透明性の高い薄層との両立は他の技術では実現できない[2] 。この場合、物体性のある塗りは厚ければ厚い程良いということにはならないし、過剰に厚くすると媒材が滲み出てそのまま固化し塗膜の美観を損なう場合があるが、透明性の高い層は塗厚の変化に伴い色合いが大きく変化し、また塗りを薄くすることで技巧を凝らした跡が目立ち難くなる場合があるため、相対的により強調される場合がある。透明性の高い薄層(グレーズ)は古典的な油彩画において特徴的な技法とも言われるが、現在観察される古画の外観の平面性は、絵画修復の際に用いるストレッチャーよって張力を加えたことの影響を受けたものであり、本来は筆触などのテクスチャーが現在よりも明確に識別できたとするのが妥当である。

黄変性[編集]

市販のチューブ入り油絵具においては、黄変(:絵具が乾燥に伴って黄色がかっていく現象)の影響が顕著である。白色などの明色の大半は芥子油、暗色など乾性油の黄変の影が弱い色は亜麻仁油を使用し練り上げるのが一般的であるが、ごく限定的に芥子油を使用するメーカーもあれば自社最高級品の全色を芥子油などの淡色の乾性油で練り上げるメーカーも存在する。これは各メーカーの設計思想の問題であり、一概にどの手法が最良であるとは言えない。亜麻仁油は乾燥が速く堅牢な塗膜を作るが黄変性が強く、芥子油・ポピーオイルは黄変性は小さいが乾燥が遅く塗膜も脆いので100年程度経過しただけで塗膜に問題を起こし絵の美観を損なう例も多い。また芥子油は高価である為、普及品などにおいてはサフラワーオイルが採用される場合も多い。

白色の黄変性を抑制する目的で亜鉛華ジンクホワイトを添加する措置が存在するのだが、亜鉛華は亀裂などの問題を起こす原因であり、あまり望ましくない。添加を製品に明記しているメーカーとして、「バニーコルアート(『ウィンザーアンドニュートン』)」、「ロイヤルターレンス(『レンブラント』、『ヴァンゴッホ』)」、「シュミンケ(『ムッシーニ』)」等が、添加を明言しているメーカーとして「マツダ油絵具株式会社」がある。

絵具の自作[編集]

現在一般的なチューブ入り油絵具は、19世紀になってから開発された。それ以前は、画家の弟子などが顔料と乾性油などを練り上げて絵具を作っていた。一般の人で絵具を作る人は少ないが、絵具メーカーは絵具の手練りの仕方に関する冊子を作るなどして知識の普及に貢献しているので、自作することも出来る。顔料と展色材を練り上げれば絵具になる。大規模な画材店などで市販されているアルミチューブ(尻を折ってない状態)に詰めチューブの尻を折れば、チューブ入りの手練り絵具を作ることもできる。手練りの絵具と市販の機械練りの絵具は、練成工程(練肉)や絵具の組成の違い、品質管理の仕組みなど、異なる点が多く、性質は異なる。西欧では現在でも、絵具の自作を作家が自ら行う場合が多い。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. フランキンセンス(乳香)とは異なる。
  2. 『絵画技術体系』 マックス・デルナー 著 ハンス・ゲルト・ミュラー 著(改訂) 佐藤一郎 訳 美術出版社 1980/10 ASIN: B000J840KE

参考文献[編集]

  • 『絵具の科学』 ホルベイン工業技術部編 中央公論美術出版社 1994.5(新装普及版) ISBN 480550286x
  • 『絵具材料ハンドブック』 ホルベイン工業技術部編 中央公論美術出版社 1997.4(新装普及版) ISBN 4805502878

外部リンク[編集]