システムインテグレーター

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システムインテグレーター(英語:System Integrator、通称:SIer)は、個別のサブシステムを集めて1つにまとめ上げ、それぞれの機能が正しく働くように完成させる「システムインテグレーション」を行なう企業のことである。情報システム(情報技術産業、IT業界)、軍需産業において名乗ることが多い。

SIerとは、System Integrationの略称SIに「~する人」を意味する-erをつけて「System Integrater」とした造語であり、エス・アイアーと読む。

情報システム[編集]

日本の情報システムにおけるシステムインテグレーターとは、情報システムの開発において、コンサルティングから設計開発、運用・保守管理までを一括請負する情報通信企業である。

概説[編集]

情報システムにおける元々のシステム・インテグレーターは、複数のベンダから汎用のパッケージソフトウェアやハードウェアなどの完成品を購入して、1つのシステムとして矛盾なく、効果が出るように組み立て、統合する事業に特化した企業のことを言う。あえて説明すれば水平分業的である。付加価値再販業者を名乗ることもある。

日本におけるシステムインテグレーターはアウトソーシングの一環として流行った業態である。システム開発を、システムのオーナーとなる会社(クライアント)から一括請負して、完成までの責任を負う主契約の相手(プライム)になる。プライムは個々の作業を副契約の会社(サブコントラクター、サブコン)に発注する。

日本において、システムインテグレーターはパッケージソフトウェアやSaaSの販売、アプリケーションサービスプロバイダなどを行う場合もあるが、カスタムメイドの受託開発が圧倒的に多い。つまり下請け(協力会社)を組み合わせて1から作るのが、日本のシステムインテグレーターである。あえて説明すれば垂直統合的である。

システムインテグレーターの隆盛は、日本特有の現象である(後述)。ITゼネコンの問題もある。

分類[編集]

システムインテグレーターは以下のように分類されることがある。

メーカー系[編集]

コンピューターのハードウェアを製造するコンピュータメーカーから派生した企業。世界初のメインフレーム(汎用コンピュータ)開発に成功したIBMとそれに対抗する日本の三大コンピューターグループなど、1960年代の黎明期からハードウェアを製造していたメーカーが多い。

メーカー系システムインテグレーターは、上記のメーカーからソフトウェアを作る部門が独立した会社またはそのメーカー傘下に入った会社である。メーカー製品と組み合わせたソリューションの提案に強みがある。一般的に親会社から開発案件を受注して開発を行うことが多い。いわゆるITゼネコンを構成する会社であり、システム構築のプロジェクトにおいて商流の上位に位置する傾向が高い。

日立製作所
日立ソリューションズ日立システムズ
NEC
NECソフトNECシステムテクノロジーNECネクサソリューションズNECネッツエスアイ
富士通
富士通マーケティング富士通エフサス富士通エフ・アイ・ピー
東芝
東芝ソリューション
三菱電機
三菱電機インフォメーションシステムズ三菱電機インフォメーションテクノロジー
日本IBM
日本ビジネスコンピュータ

ユーザー系[編集]

ユーザー系参照

いわゆる情報システム子会社である。商社や金融会社などの情報システム部門が、コストセンターからプロフィットセンターに転じる目的で独立した。主にグループ企業の案件を受注してシステム構築を行う。親会社の案件への依存度が低く、他の顧客の案件を積極的に受注する企業もある。

(例)野村総合研究所新日鉄住金ソリューションズNTTコムウェア伊藤忠テクノソリューションズ日本総合研究所SCSKなど。

独立系[編集]

ISV参照。

親会社を持たない、資本的に独立した会社。独立系の会社の子会社もこちらに分類される。メーカーや他のSIerからの下請け業務を行うこともある。

(例)ITホールディングスTISインテック)、大塚商会トランスコスモスオービックシーエーシー内田洋行NSDなど。

その他[編集]

NTTデータ電通国際情報サービスは分類不能とする説、ユーザー系と分類する説がある。上記の分類の他に、コンサル系という分類が加えられる場合もある。2011年の調査によると、日本のソリューションプロバイダ(インフラ構築と機器販売を含む)の売上高トップ10(上場企業のみ)は下記の通りである。

順位 会社名 分類
1 NTTデータ ユーザー系
2 大塚商会 独立系
3 野村総合研究所 ユーザー系
4 ITホールディングス 独立系
5 伊藤忠テクノソリューションズ ユーザー系
6 日本ユニシス メーカー系
7 SCSK ユーザー系
8 NECフィールディング メーカー系
9 新日鉄住金ソリューションズ ユーザー系
10 ネットワンシステムズ 独立系

歴史[編集]

システムインテグレーターが登場する以前は、クライアントの情報システム部門が主導してシステム開発を指揮していた。1990年代、これを外部のシステムインテグレーターにアウトソーシングする流れが起きた。

第1に都市銀行の第三次オンライン・システムなどシステムが巨大化・高度化した。経済性や技術面、標準化、社会的なシステムの構築などの面から、個々の企業には手におえなくなってきた。第2に企業内の情報システム部門は収益を上げる製造営業部門から離れた間接部門であり、バブル後の不況によって経費削減が迫られた。第3に米国でアウトソーシングが流行していた。特に1989年コダックIBMのアウトソーシング契約は「コダック・エフェクト」として話題になった。このような、情報システムの業務を社外の専門会社に一括委託するアウトソーシングが日本国内でも多くの企業で合理的であると判断され、外部委託と共に無用となった情報システム部門の子会社化や売却も多数行なわれた。政府もSI・SO制度を作り後押しした。

しかしシステムインテグレーターの隆盛は、日本特有の現象である。実は米国のユーザー企業は独自のシステムを開発する場合は、システムを内製する傾向が強い。情報システム部門がエンジニアを抱えて、社内でシステム開発から運用までを行なう、インハウス開発である。コダックのような一括請負のフル・アウトソーシングは特例的なもので、システム等管理運営受託が多い。

これに対して、日本のユーザー企業はクライアントとしてシステム開発を外注・丸投げする傾向が強い。特に政府調達においては丸投げは顕著で、一部のシステムインテグレーターがITゼネコン化する弊害が出ている。また民間でも、情報システム部門の弱体化による企画力や発注能力の低下が問題になっている。2009年4月1日から強制適用される工事進行基準や政府調達制度の改革により、過度の丸投げを抑制しようという動きが進んでいる。

なお「エスアイアー」や「エスアイヤー」は和製英語である。日本のシステムインテグレーターを英語で説明する場合は、ITサービス会社(information technology services company)と説明した方が分かりやすい。例えばNTTデータは「It offers a broad range of IT services including consulting, systems integration and IT outsourcing.」のように説明される。

受託開発[編集]

日本のユーザー企業は、その企業専用に特化したカスタムメイドのソフトウェアの開発をIT企業に発注する傾向が強い。汎用のパッケージソフトを導入する場合でも、カスタマイズ比率が高い。よって日本のIT企業のビジネスモデルは、ユーザー企業の自前主義に対応して、受託開発が中心になっている。受託開発におけるIT企業の役割は、ユーザー企業の提示する要件に基づいて、仕様書を作成しプログラムを記述し、情報システムを構築する事である。これを行うのがシステムエンジニアである。

受託開発は収益性が低い。八尋俊英は「情報サービス業の市場規模と比べて、日本のIT企業は収益性が低い。欧米のIT企業だけでなく、インドのIT企業にも負けている。その原因は受託中心と多重下請けである」と主張している。受託開発によって作成されたソフトウェアは、外販されることが少ない。また知的財産権がユーザー企業に帰属する契約となっていることが多く、IT企業は過去の成果物を再利用して、生産性を上げる事が出来ない。受託開発を担うシステムインテグレーターの隆盛は、日本の国際競争力を下げている。

法令の遵守が徹底されていない。受託開発は労働集約的で、多重型の受注構造が取られている。それに伴い、技術者の手配に際して偽装請負が常態化している。この他にも「下請法違反」「制限を超えた残業、サービス残業の常態化」「裁量労働制の間違った適用」「スキルシートの違法な提示」を問題視する意見がある。

受託開発はユーザーの指示通りに作るだけなので、差別化が図り辛い。外販もされず地味である。海外と比較しても、立場の弱さが顕著であり、多重型の受注構造の原因となり、労働条件も悪い。受託開発を担うシステムインテグレーターの隆盛は、若者のIT業界離れの一因になっている。

長期的な収益性の低下[編集]

インドのIT企業にも劣る収益性の低さは、短期的なものではない。業界全体の売上高は伸びているにも関わらず、営業利益率は1998年度をピークとして下降し続けている。

情報処理に対して理解の乏しいユーザに過剰に不安感を煽り、不要なシステムを提案する。書籍やWeb情報媒体との連携によって業界ぐるみで儲けていた時代もあったが、このまま収益性が下がり続けると「あと20年以内に上場企業全体としては営業利益率がゼロ」になるという意見すらある。

世界のITサービス会社[編集]

2008年の調査によると、世界のITサービス企業の市場占有率トップ5はIBMHPアクセンチュア富士通CSCである。2006年の調査ではトップ10として、上記の企業の他にEDSロッキード・マーティンCapgeminiADPノースロップ・グラマンが挙がっていた。日本の富士通とフランスのCapgemini以外は全てアメリカ企業である。なおEDSはHPに買収された。2009年度のIDCによる調査では、4位富士通、9位NEC、10位NTTデータ、11位日立がランクインし、2010年度には富士通が3位にランクインした。

軍需産業[編集]

軍需産業参照

欧米の軍事産業においては、システムインテグレーターを名乗る企業がある。代表的なシステムインテグレーターに、米ボーイング社や米ロッキード・マーティン社、米ジェネラル・ダイナミクス社、英BAEシステムズ社、蘭EADS社、仏タレス・グループ等がある。

兵器を製造する軍需産業の分野では、古くは帆船蒸気機関を搭載し、トラクター機関銃を備えた砲塔を搭載するシステムインテグレーターの黎明期を経て、第二次世界大戦以後の冷戦期に、大陸間弾道弾や軍事衛星、レーダー誘導ミサイル等の高度な制御が求められる兵器の登場によって、本格的なサブシステムの統合能力が求められるようになった。

SIerを退職しました[編集]

2013年8月31日を持って、新卒で就職したSIerを退職しました。2012年4月に入社してから約1年半、社会人としてのマナーやプログラマとしての基礎を教えて頂きました。関係者の皆様、大変お世話になりました。

退職を決めた理由ですが、これといった契機があったわけではありません。強いて言えば、下記の様な問題を考え続けた結果、転職という選択肢が自分にとって最善であると感じたという事です。

  • 業界の方向性に疑問を感じた。開発をアウトソーシングしマージンを抜くといったビジネススタイルでは開発者が幸せになれないと感じた
  • エンジニアとして生きていく上で技術から取り残される焦りを感じた

なんだか上手く言語化できないので、これまでの事を振り返ってみます。

今回感じた事は1年半しかいなかった自分が経験した、非常に狭い観測範囲での出来事に過ぎません。「そういう風に考えていた奴もいたんだな」程度の気持ちで読んで頂ければと思います。「会社が駄目だ、終わっている」というつもりは毛頭無いです。

入社前[編集]

元々ネットサービスに関心があり大学の友人達とWebサービスを作ったりしていたのですが、大手SIerながら社内ベンチャーがあるというユニークな環境に興味を持ち入社を決めました。

当時社内ベンチャーの代表だった倉貫さんのブログを読み、衝撃を受けた事を覚えています。学生時代の自分はネットサービス企業やベンチャーでアルバイトをしており、プログラミングはクリエイティブで楽しい物だと信じて疑いませんでした。

そんな折、倉貫さんの講演資料に「大学でやっていたプログラミングとSI企業でやるプログラミングは違う。みんな楽しそうにプログラミングしていない」と書いてあったのを見、「こんな世界があるのか…SIerとは一体何だろう」と初めて考えるきっかけとなりました。それ以降、受託開発の未来を考えるイベントのスタッフをしたりして業界の勉強をしました。

仕事[編集]

入社後はいわゆる「製造工程」をメインに担当し、SEという肩書きながらプログラミングは割とさせて頂いていたと思います。

退職する数ヶ月程前からは新人研修をやったりして、JavaScriptの学習資料をSphinxで作成したりFessという全文検索サーバの調査・導入をしたりしました。

世間一般に「SIer(特に元請け)の人間は技術力がない」という様な事が言われていますが、幸いにも自分が配属された部署には技術に明るい人が多く、JavaやOracleに関して学ぶ所が非常に多かったです。ただ、客先常駐の際になれる! SE程ではないにしても不遇な環境での開発を強いられたり、炎上している案件にいきなり突っ込まれたりする等、1年という短い期間でしたが色々と辛い事を経験したりもしました。

また、実際に現場に入ってみて「楽しくなさそうにプログラミングをしている人が多いな」と感じたのも事実です(少なくとも自分は感じました)。設計は技術が分からない人がやったからめちゃくちゃだけどその通りに作らなきゃいけないとか、政治的な理由からアーキテクチャが限定されてしまうとか…。

顧客に価値を届ける為にソフトウェアを作っているというよりも、社内外の調整の結果として生まれた歪な枠にソフトウェアを当てはめている様な気がしました。

「自分は顧客に価値を提供できているだろうか」、という自問に自信を持ってYesと答える事ができませんでした。更に、2年目からは自らコードを書く機会が減りマネジメントの機会が増え、このままだと技術者として取り残されてしまうのではないかという焦りもありました。

業務外では同期とGit勉強会を開催したり、インターネットでワイワイしたり、勉強会に同期を引っ張りだしたりしました。同期や先輩方には本当に恵まれたと思っています。

偉そうに書きましたが、仕事を通して残せた物は無いに等しく自分の無力さを痛感しています。

人月のジレンマ[編集]

昨今、SI業界に関してネガティヴな意見が多いのは、ご存知の通りです。「元請け企業の社員はコードが書けない」、「受託開発はもう終わりだ」等々…。

実際にSIど真ん中の現場に入って感じた事は、プログラマがシステム開発ヒエラルキーの最底に位置しているという事でした。幸いにも自分がいた環境はその限りではありましたが、業界として見ればその姿勢は否定できないのではないでしょうか。

人月(必ずしも悪だとは思いませんが)、一括納品のビジネスモデル、多重請負構造、ディフェンシブな開発体制(この辺りの思想は倉貫さんに強く影響を受けています)…パッと思いつくだけでもSIerの受託開発には多くの問題や矛盾が存在しています。

個別の問題に関してここでは言及しませんが、こうした問題が10年以上前から指摘されているにも関わらず、なぜ無くならないのか。

それはひとえに、システム発注側がそうした体制下での開発を求める事が多いからだと思います。当たり前の事ですが、システムの受託開発は顧客側の姿勢に依存する点が非常に大きいです。発注側がシステムを作る事だけを求めたり、システム開発のリスクをベンダーに請け負わせるといったスタイルを続ける限り、SIerの現行ビジネスは、それが如何に批判の対象となろうともずっと続いていくのではないかなと。

未熟な頭で必死に考えた結果、上記の問題を解決する為には、2つの道があるのではないかと考えます。

  • 永和システムマネジメントソニックガーデンなど、新しい受託開発を提案できる環境に身を置く。リスクを丸投げしてくるような発注をそもそも受けない。
  • ユーザー企業(敢えて幅広い言い方をしています)に身を置き、既存のSIではない事例を作っていく

今回、迷った末自分は後者を選択しました。

個人的には受託開発というビジネスは無くならないし、無くす必要もないと思っています。人月や技術的制約といった問題はエンジニアが一度は通る道ですし、レガシーなアーキテクチャのネットサービスもあれば最新技術を使った受託開発もあるでしょう。

大事な事は、システム開発を通して開発者とユーザーがどれだけ幸せになれるかではないでしょうか。自分が見てきたような「IT土方」の様な人達が少しでも少なくなればいいなと思います。そういう流れを作っていくには、社内で出世して機会を伺うのは自分にとっては途方もなく気の長い事の様に感じ、外に飛び出す事を決めました。

最後に[編集]

SIerでの1年半は思い悩む事が多く、必ずしも順風満帆とは言い難いものでしたが、ここで思い悩んだ事というのは後々自分にとってプラスになると信じています。周囲からの期待も感じる中、この様な結果になってしまい関係者の皆様には申し訳ない気持ちで一杯です。

ですが、後悔無い様自分が信じた道を進んで行きたいと思います。開発者とユーザー、双方がハッピーになれるような現場が増えていけば良いと心から思います。

最後になりましたが関係者の皆様、今まで本当にありがとうございました

参考文献[編集]

  • 白井和夫・宮野ナナ 『SI業界知りたいことがスグわかる!!』 こう書房、2005年。 ISBN 4769608594
  • 最相手 力『システムインテグレーターの時代』(1991年、コンピュータ・エージ社) ISBN 978-4875661078

関連項目[編集]

外部リンク[編集]