ふきだし

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ふきだしは、主に漫画で登場人物のセリフを表現するために、絵の中に設けられる空間のこと。

通常は楕円形に三角形がくっついたような形(図1)をしており、楕円形の中にセリフを描き、三角形の頂点が指す人物がそのセリフを発していることを表わす。しかし、周りを楕円形でなく、ぎざぎざにする(図2)と大声で話していることを表わし、楕円形を点線で描いたり、小さく描いたりすると小声で話していることを表わす。

楕円形の代わりに雲形の空間を作って、三角形の代わりに連続する小さな楕円を使う(図3)と、楕円の向かう先にいる人物が雲形の空間に入っているセリフを心の中で思っていることを表わす(場面によっては小声で話していることを表わす場合もある)。このふきだしをしばしば、モノローグということもある。角張ったふきだし(図4)はテレビや電話などから聞こえる声を意味したり、外国語を話していることを形式的に表現することもあり、ふきだしの付加する意味は漫画の文脈とも密接に関わっている。

ふきだしの中のセリフには句読点はつけないのが普通であるが、感嘆符などは頻繁に使用される。小学館など句読点を使用する出版社も少数ながら存在する。

作者ごとのスタイル[編集]

ファイル:Fukidashi2.png
左:手塚スタイル、右:長谷川スタイル

基本の"せりふ"を意味するふきだしに限っても、その形状は漫画家によってかなり異なる。また、同じ作家でも時期による変化もあるし、作品によって変えている場合もある。ここで図示したのは日本を代表する漫画家の例で、左が手塚治虫の、右が長谷川町子の使っていたふきだしの一例である。手塚は自身の日記の中で、これは彼以前の作家の使っていた形状に由来する、と書いている。

使用される書体[編集]

ファイル:Antigue gothic.png
アンチゴチの例

商業ベースの漫画においては、ふきだし内のセリフは二種類の書体が混植(混ぜて使用)されている。漢字はゴシック体かなアンチック体(antique=アンティークの意)となっているのである(これをアンチゴチという)。日本の漫画発展史の中で、可読性の追求により開発されてきた方法と言える。たいていの商業誌に使用されているゴシック体は、いま流行りの新ゴなどのモダンサンセリフではなく、筆の動きを感じさせる古風な、しかし落ち着いた意匠の書体である。これは石井ゴシック体と呼ばれる書体で、写植メーカー大手・写研の創業者石井茂吉が書き起こしたもので、常にスタンダードとして使われており、写研以外のシステムを使う場合にも雰囲気の似た書体が選ばれることが多い。出版社によっては同じ写植メーカーのモリサワの書体を使用している場合もある(講談社など)。

ネームを自力で作って貼っているような同人誌などで、ワープロ専用機ワープロソフトなどで混植が技術的に困難な場合は総てが明朝体になっていたりもしたため、混植について知らない人間でもここから「同人誌っぽい」という印象を受けることがある。最近ではパソコンの普及により、ワープロソフトで、あるいは漫画制作ソフトを用いることで、商業誌に近い組み方が容易になってきている。そういった需要も踏まえて一般向けにアンチック体の販売も増えてきているが、混植を敢えて行わずともゴシックとアンチックを組み合わせた「コミックフォント」という形でのフォント製品も販売されている。

また、ふきだしの中の文字を不気味な書体(古印体など)にしたら、恐いことを喋っているという表現になったり、かすれた文字にすると喉がガラガラの状態だという表現になったりと表現の形は様々である。商業誌でこういった特殊な表現に好んで用いられる「ボカッシィ」や「イナクズレ」といった独創的な書体の多くは写研システム専用で、ほとんどはMacintoshベースのDTPでは現在のところ使用できない。写研機は通常500万円以上するため、パソコンとフォントの組み合わせなどと違い「漫画のために個人で導入する」ことは考えづらい(写植会社に発注する方法もある)。

ふきだしと翻訳[編集]

以上の解説は主に日本語圏におけるふきだしの解説であるが、ふきだしのルールは地域によって若干異なり、漫画の国際的な流通が盛んとなった今日では翻訳の際に大きな障壁となることがある。 アメコミをはじめ、英語圏ではふきだしを独立して描かず、コマの余白か、コマの枠線を部分的に使ったふきだしに台詞を独特の手書き文字で描くことが多い。これを翻訳して文字を張り直すことはさほど困難な作業ではないが、一方、日本の漫画を英語に翻訳する際には、いくつかの障壁が存在する。第一に、縦書きと横書きで綴じ方が逆になるため、コマの順番が入れ替わってしまう。このことについては原稿を鏡像にしたり、一コマずつ切り離して再構成したうえで翻訳し、鏡文字になってしまう擬音などの描き文字は強引に修正してしまう方法が広くとられてきたが、近年では原作を尊重する動きから、あえてそのままの原稿で横書きに翻訳し、読み進める方向を読者に指示する解説ページを最終ページ(つまり現地読者にとって最初のページだと思わがちな部分)に添える編集スタイルが見られるようになった。(鏡像印刷を嫌った鳥山明氏の作品が最初とされる。)複雑に配置されたふきだしも、元の意図を尊重した翻訳をすることが出来る。また、手書き文字はある程度残され、欄外に注釈が添えられる。

関連項目[編集]

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