ヒト

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ヒト
分類
界: 動物界 Animalia
門: 脊索動物門 Chordata
亜門: 脊椎動物亜門 Vertebrata
綱: 哺乳綱 Mammalia
目: サル目 Primate
亜目: 真猿亜目 Haplorhini
下目: 狭鼻下目 Catarrhini
上科: ヒト上科 Hominoidea
科: ヒト科 Hominidae
属: ヒト属 Homo
種: sapiens
亜種: sapiens
学名
Homo sapiens sapiens
Linnaeus, 1758

ヒトとは、動物界脊椎動物門哺乳綱霊長目・真猿亜目・狭鼻下目・ヒト上科・ヒト科・ヒト属・ヒトに属する、生物の一種である。「ヒト」はいわゆる「人間」の生物学上の別名である。その学名「Homo sapiens」は「知恵のある人」の意味である。この項では、ヒトの生物学的側面について述べる。

ヒトの進化については「古人類学」の項目を、社会性・人格等を中心に据える場合は「人間」の項目を、法律から見たヒトについては「」の項目を参照。異星のヒト型宇宙人も考慮した場合、「地球人」ともいう。

概説

ヒトとは、いわゆる人間のことで、学名Homo sapiens sapiens (ホモ・サピエンス・サピエンス)とする動物の和名である。生物学上のとしての存在を指す場合には、こう標記する。現在の地球上に存在する人間は、すべてこの種に属するものと考えられている。したがって、この文章を読んでいるのは、おそらくすべてヒトである。

古来より、万物の霊長であり、そのためヒトは他の動物、さらには他の全ての生物から区別されるという考えがあり、生物学的にも特別な生物とされる。また、ヒトの祖先はサルであると言われるが、正確にはヒト自身もサルの一種であり、サルから別の生物へ進化したというわけではない。ニホンザルという種類のサルがいるのと同様に、ヒトという種類のサルがいるというだけのことである。

分布は世界中に及び、その多様性も幅広い。その形態はいわゆる人種によって、その習性は民族によって非常に異なったものである場合がある。そのため、統一的な説明はなかなかに難しい。したがって、最低限の共通項を指摘するに止め、詳細についてはそれぞれの項目を参照されたい。

外部形態

サル目としては極めて大型の種。これより大きいものにゴリラオランウータンがあるが、いずれもサル目としては群を抜いて大きい。なお、動物一般には頭部先端から尻、または尾までの長さを測定するが、ヒトでは標準の大きさとして直立時の高さ(身長)を測定することが多いので、他種との直接の比較は難しい。

体長は雄の成体でおおよそ150~200cm、体重は50~90kg程度。雌は雄よりやや小さく、約10%減程度と見てよい。基本的な体の仕組みについて、サル目に共通の特徴、類人猿に共通の特徴以外に、ヒトに独自の特徴としては、以下の点が挙げられる。

  • 完全に直立の姿勢を取れる。頭が両足裏の間の真上に乗る位置にある。
  • 前足の付け根が背中面の位置に近い。
  • 後ろ足が長く、かかとがある。
  • 体表面の毛が薄く、ほとんどの皮膚が露出する。

以下、各部分について説明する。

頭部

頭頂部が非常に大きく丸い。これは大脳が発達しているためである。面はほぼ垂直、あごの先端がややとがる()。顔面の上から後ろにかけて毛(頭髪)が密生する。頭髪に覆われる部分以外は肌が露出することが多いが、雄は顔面下部に毛を密生することがある()。目の上、まぶたのやや上に一対の横長の隆起があり、ここに毛を密生する()。は前に突出し、鼻孔は下向きに開く。の周囲の粘膜の一部が常に反転して外に向いている()。

胴部

直立姿勢であることによって、背面はやや中央がくぼんだ平面を成し、胸と腹がやや前に突き出した形になる。また、両側の肩胛骨がほぼ同一平面に並び、平らな背中を形成する。

雌では胸に一対の乳房が発達する。また、腰骨は幅広くなっており、腰の後部に多くの筋肉と脂肪がつき、丸く発達する()。尻の隆起は主として二足歩行によって必要とされたために発達したものと考えられる。しかし雌の尻は脂肪の蓄積が多くてより発達し、乳房の発達と共に二次性徴の一つとされる。特に雌における乳房は性的成熟が始まるとすぐに発達が始まり、妊娠によってさらに発達するとはいえ、非妊娠期、非保育期間にもその隆起が維持される点で、ヒトに特異なものである。これには、性的アピールの意味があるとされるが、その進化の過程や理由については様々な議論がある。乳房の項を参照。

前足(腕)

前足は手と呼ばれ、歩行には使われない。あえて使う場合には多くの場合掌側を地につけ歩き、チンパンジーなどに見られるナックル・ウォークは一般的でない。

肩関節の自由が大きく、腕を真っすぐに上に伸ばし、あるいは左右に広げてやや後ろに曲げることが可能である。親指が完全に掌と向かい合う。指先は器用。

後足

後足は単に足とも呼ばれ、歩行のために特化している。膝を完全に伸ばした姿勢が取れる。膝は四足歩行時にここを接地させるので肥厚しやすい。かかととつま先がアーチを形成し、間の部分(土踏まず)がやや浮く。これによって接地の衝撃を吸収する。

体毛について

ヒトは往々にして「裸のサル」といわれる。実際には無毛なわけではなく、掌、足の裏などを除けば、ほとんどは毛で覆われている。しかし、その大部分は短く、細くて、直接に皮膚を見ることができる。このような皮膚の状態は、他のほ乳類では水中生活のものや、一部の穴居性のものに見られる。ヒトの生活はいずれにも当てはまらないので、そのような進化が起きた原因については様々な説があるが、定説はない。代表的なのは以下のような説である。

  • 外部寄生虫がとりつきにくくする、あるいはそれらを取りやすくするための適応。
  • 体表を露出することで、放熱効率を上げて、持久力を上げるための適応。
  • 幼形成熟(ネオテニー)の結果。
  • 性的接触の効果を上げるための適応。
  • 一時期に水中生活を送ったなごり。(水に浸からない頭髪だけが残ったという説。水生類人猿説を参照)

全身は裸に近いが、特に限られた部分だけに濃い毛を生じる。それには生涯維持されるものと、性成熟につれて発生するものがある。おおよそのパターンはあるが、実際の毛の様子には雌雄差、人種差、および個体差が大きい。

毛が密生する部位は、数か所に限られる。それらは、以下のようである。

  • 頭部の上から後ろにかけて(頭髪)・目の上の横長の部位(眉)・鼻孔内(鼻毛):この部分は、ごく幼い頃から毛が濃く、成人までそれを維持する。老化が進むにつれて頭髪は薄くなる場合があり、それは雄で特に著しいが、個体差が大きい。
  • 脇の下(脇毛)・股間の性器上部と周辺から肛門周辺にかけて(陰毛):いずれも第二次性徴の発達に平行して発達する。
  • 顔の鼻から下、耳から顎にかけて()・胸の中心線周辺(胸毛)・足の膝から下(すね毛):これも二次性徴の発達にしたがって出現するが、雄に顕著で、雌では発達しない。雄でもこれらの毛の濃さには個体差があり、ほとんど生えないものもいる。

なお、ほ乳類の顔面には上述の体毛とは別に、感覚器官としての毛「洞毛(どうもう)」が生えている(e.g.猫のヒゲなど)が、ヒトの顔面からは洞毛が完全に消失している。

内部形態

全体


首より上

大脳が極めてよく発達し、その体全体との比ではほ乳類中で最大である。


上半身(上記抜き)

  • 肝臓…生命機能に必要な物質の一部を合成して身体の他の組織に送り、他の組織より老廃物や有害物質を受け取って無害化を図る巨大な代謝組織である。また、胆汁を産生・分泌する外分泌腺でもあり、体温維持に必要な熱を産生する主要な臓器でもある。
  • 心臓…機能的、解剖学的に左右に分けられる。右心系は肺を除く身体各部の血管系(体循環)から上、下の大静脈を通して血液(静脈血)を受け取り、肺動脈を通して肺の血管系(肺循環)に血液を送り出す。肺でガス交換を終えた血液(動脈血)は肺静脈を通って左心系に流入し、左心室の強大な拍出力によって体循環へと再び送り出される。
  • …鼻、鼻閉時には口を通して吸入された空気と肺循環に送り込まれた静脈血との間で主に酸素と二酸化炭素の交換を行う臓器である。空気と血液は肺胞壁と血管内皮を介して隣接し、各気体のガス分圧の勾配に従ってその移動を許す。即ち、酸素はより分圧の高い空気から分圧の低い血液に向かって移動し、二酸化炭素はより分圧の高い血液から分圧の低い空気へと移動する。この結果、動脈血は酸素に富み、二酸化炭素の少ない血液となる。また、肺血管は膨大な毛細血管床を有しており、静脈血はすべてこれを通って体循環へと入るため、静脈血中の一部の物質の代謝や物理的な濾過の役割も果たす。
  • 膵臓…膵臓は外分泌腺と内分泌腺よりなる。外分泌腺部では多くの消化酵素(トリプシン、キモトリプシン、リパーゼ、アミラーゼ等)が産生され、膵管の分泌するアルカリ性の液体と混じて膵液を作る。消化酵素は多くは活性を持たない前駆体の形で膵液に含まれ、これがペプシンや十二指腸上皮の刷子縁に存在するペプチダーゼによって部分分解される事で活性のある酵素を生じる。内分泌腺部はランゲルハンス氏島と呼ばれ、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、VIPなどを産生している。
  • 腎臓…血液を濾過し、血球と大分子量の物質を除いた濾液(原尿)を産生し、これから必要な物質を再吸収して尿を産生する臓器である。再吸収される物質は多くあるが、代表的なものとしてナトリウム、カリウム等の電解質、グルコースやアミノ酸等の栄養素、小分子タンパク等がある。また、水分もほとんどが再吸収される。このため、一日に産生される原尿は200リットルと膨大な量にも関わらず、尿量は1〜2リットル程度となる。この様な尿産生の過程で、身体に不要な老廃物は再吸収効率が悪いため、尿中に濃縮される事になる。電解質や水分(自由水)の再吸収率を調節する事で、腎臓は身体の体液量を調節する極めて重要な組織である。また、腎臓は赤血球の産生を刺激するエリスロポエチンや、体液量と血圧を増大・上昇させるレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系を駆動するレニンを分泌する内分泌臓器でもある。
  • (食道)含…食物を胃液と混じ、一時的に保持する臓器である。胃液も消化酵素であるペプシンを含むが、胃液自体は消化機能に必須ではない。むしろ、食事で一度にとられた食物を保存しておき、徐々に十二指腸に送り込む機能が主機能である。このため、保持している食物中で細菌が増殖しない様に、強い酸性の胃液と混じて保存する必要があるのである。強い酸性である胃酸に胃粘膜が障害されない様に、胃の上皮細胞は粘液を産生して防御している。この様な防御因子を阻害するものがあると、胃粘膜障害が生じて胃潰瘍ができる可能性がある。防御因子の阻害要因としてはH.pyloriが最大の要因であり、その他喫煙、ストレス、NSAID等の薬剤、胃粘膜血流の減少等があげられる。
  • 小腸…食物を吸収可能な形まで分解し、それを吸収する臓器である。まず食物は膵液と混ざり、大雑把に分解される。これがさらに小腸の上皮細胞の刷子縁にある分解酵素(各種ペプチダーゼや二単糖分解酵素等)でアミノ酸や単糖の状態まで分解され、上皮細胞内に吸収される。刷子縁に存在する酵素で吸収可能な形にまで分解する意義は、刷子縁は極めて細かな微絨毛からなり、この隙間には細菌も侵入できない為、ここで最終的な消化が行われれば細菌との栄養素の競合が少なくなる事にあると考えられている。
  • 大腸…大腸は大きく結腸と直腸に分けられる。結腸は栄養素が吸収された後の残渣から水分と電解質を吸収し、便を作る臓器である。直腸は便を排便まで保持する臓器である。消化管には食物や飲料の他、胃液や膵液、腸液など、一日に平均して10リットル近い水分が流入する。そのうち、約1.5リットルが小腸において吸収され、残りのほとんどを結腸が吸収する。便中に排泄される水分はわずか200ミリリットル程度である。結腸が濃度勾配に逆らって吸収できるのは電解質しかない。水分は吸収された電解質に引かれて受動的に吸収されるにすぎない。従って、結腸は基本的には自由水を吸収する能力は持たない。
  • 膀胱…尿を排尿時まで保持する臓器である。陸上生活をするほ乳類においては、尿や便を魚類のごとく垂れ流しにするのは甚だ生存に不利である。これは、尿や便を垂れ流しにすれば、それを辿って捕食者に容易に発見されてしまう為である。従って、ほ乳類では便を保持する直腸や尿を保持する膀胱が発達したと考えられている。
  • 胆嚢…胆嚢は肝臓で産生された胆汁を保持し、濃縮し、必要な時に排出する臓器である。胆汁は肝細胞で産生され、細胆管や肝内胆管、左右肝管、総肝管へと流れるが、総肝管から分岐する胆嚢管を通って胆嚢に流入する。ここで水分の吸収などが行われて濃縮され、保持される。小腸の上皮から分泌されるコレシストキニンなどの刺激があると胆嚢が収縮して濃縮された胆汁が排出される。これは胆嚢管から総肝管を通り、膵管と合流した総胆管、そしてファーター乳頭を経て十二指腸に流入する。
  • 副腎…副腎は皮質と髄質からなり、皮質は主に三種類のステロイドホルモンを産生し、髄質はカテコラミンを産生する内分泌臓器である。皮質はさらに球状層、束状層、網状層よりなり、それぞれアルドステロン(鉱質コルチコイド)、コルチゾール(糖質コルチコイド)、DHEA(男性ホルモン前駆体)が主産物である。副腎皮質機能不全は死に繋がりうる極めて重要な疾患であり、これは即ち副腎皮質の産生するホルモンの重要性を示すものでもある。副腎髄質はカテコラミン、特にアドレナリン(エピネフリン)を産生する臓器であり、交感神経系と共同して「逃走と闘争」の反応を引き起こす。
  • 脾臓…機能的には巨大なリンパ腺と考えてよい。ただし、リンパ腺がリンパ系に属するに対し、脾臓は血管系に繋がる。脾臓では古い赤血球(寿命はおよそ120日である)がマクロファージに貪食されて処理され、血液中の病原体なども濾過、貪食される。また、これに引き続く適応免疫の展開の場ともなる。従って、脾臓には極めて多くのリンパ臚胞が存在する。脾臓は他のほ乳類では血液を保存し、運動時に収縮する事で血液量を増加させる機能があるとされるが、ヒトにおいてはこの様な機能はほとんどないと言ってよい。脾臓の摘出は生命維持という観点では大きな影響は無いが、幼少時に脾摘をうけると細菌感染症に罹りやすくなるなど、免疫能が低下する可能性がある。


人体」の項も参照。

生理的特徴

身体能力

ヒトは大部分のほ乳類とは異なり、後肢だけで立つ直立姿勢が普通の姿で、移動は主としてこの体制で両足を交互に動かす、いわゆる直立二足歩行を行う。長距離移動に関しては能力が高い。

前肢は移動には利用せず、主としてものをつかむ、引く、押すなど操作するのに使われる。そのため、前肢の基部の関節の自由度が高い。

ヒトの泳ぎ

水泳は個人の努力次第の面もあるが、多くの民族には、ヒトが独自に考え出した泳ぎ方が伝わっている。水に入るのを好まないものが多いサル類の中では、泳ぎは巧みな方と言ってよいであろう。一説には人間の進化のある段階は海岸で行われたといい、体毛の配列が水泳に向いているとの説もある(水生類人猿説)。ただし、物的証拠はない。

生活史

妊娠期間は約266日、約3kg程度で生まれる。

新生児はサル目としては極めて無力な状態である。一般のサル類は、生まれてすぐに母親の体にしがみつく能力があるが、ヒトの場合、目もよく見えず、頭を上げる(首がすわる)ことすらできない状態である。これは直立歩行により骨盤が縮小したために、より未熟な状態で出産せざるを得なくなった物と考えられている。しかしながら、出産直後の新生児は自分の体を支えるだけの握力があることが知られ(数日で消える)、また、体毛も出産までは濃く、その後一端抜けるなど、「裸で無力」なヒトの乳児の性質は二次的に獲得されたとする説もある。

約2年で、次第に這い、立ち歩き、言葉が操れるようになる。栄養の程度にもよるが、10年から20年までの間(思春期)に性的に成熟を完了する。体の成長はその前後に完成する。

生殖は、雌雄共に15歳を過ぎたあたりから活発になり、40歳くらいまでが盛んな時期と言えよう。雄の場合、その活動は次第に低下するが、老齢に達しても完全に無くなるわけではない。それに対して雌では通常50〜55歳くらいに閉経があり、それを期に生殖能力を失う。

老化が進むと、骨格が縮み、筋力は低下し、背中が曲がる等、一定の変化を生じる。

寿命

理想的な環境(非常に長生きすることに適したヒトが、各種の寿命を縮める要因のない状態)で現代のヒトの最大寿命はおよそ120歳程度と想像される(最も長く生きた個体の寿命が122歳であったことが確認されている)。だが、実際には様々の要因により寿命はそれよりも短くなる。雌の方が5年から10年程度平均寿命が長くなるようである。かつてヒトの平均寿命ははるかに短く、30~50年程度であった。現在でも、栄養条件の劣悪な環境下(主に発展途上国及び未開社会)では、30~50年程度であることが多い。

そして、生殖可能な年齢を過ぎた後の生理的寿命が非常に長い。2003年時点で最も平均寿命の長い国家(日本)では女性の平均寿命が85.4歳、男性の平均寿命が78.4歳である。右図にあるように地域によって平均寿命の値が大きく異なるのは乳児死亡率の違いが最大の原因である。(⇒寿命#人間の場合


生殖可能期以降の寿命が長いことの理由については、いくつかの説がある。たとえば、「お祖母さんのお陰」だという説では、母親が自分の経験に基づいて娘の子育ての手伝いを行なうことが子育ての成功率を大きく上げるためであろうとする。(おばあさん仮説

習性

ヒトの習性は、高度に発達した知能や集団内の情報伝達の発達によって、それ以外のすべての動物とは非常に異なった様相を見せる。しかし、このような記述を行う場合には、それがまたやっかいな面でもある。

文化との関連

一般に動物の行動や習性は本能行動学習行動知能行動の3つに分けられる。本能行動は遺伝子レベルで確定され、生得的に身についているもので、昆虫などによく発達している。学習行動は、それぞれの個体が経験によって後天的に身につけるものである。知能行動は、これに似るが、そのような学習を基礎に、初めての状況下で、推測などの判断をもとに行われるものである。ヒトにおいては、本能行動はほとんど見られず、学習行動と知能行動が発達していると言える。

しかしながら、現実のヒトの行動がそれらによるものであるかと言えば、必ずしもそうではない。日常に見られる行動の多くは、個人が経験で獲得したものでも、推測などによって判断したものでもなく、その個体の属する集団に伝統的に継承されたものである。各々の個体は、親や周囲の他個体から見習う(模倣)、あるいは積極的に指示される(教育)ことで身につける。そのような点で、上記3つのどれとも異なる部分がある。これを何と呼ぶかは難しいが、広い意味では「文化」という語をこれに当てる考えもある。通常は文化と言えば、言語芸術、技術、あるいは社会的なものなどの部分を指す場合が多いが、その発達や伝達の形式だけを取れば、共通するものである。

このような広い意味で文化を考えれば、(ヒト以外の)サルなどの動物にもその片鱗が見られる。しかし、ヒトの場合には、文化的に決定される部分が非常に大きい。その内容は地理的にまとまった集団によってある程度までは共通する。このまとまりを民族というが、その中にさらに多少とも異質な小集団が見られることも多い。また、歴史的経過の中で、いくつもの民族が入り乱れた状態になる場合もあり、その様相はこれまた多彩である。しかし、いずれにせよ、文化はその民族ごとに多少とも固有であり、情報や意思の伝達に使われる言語や身振り手振りまでもが異なるので、意志疎通すら困難な場合もある。その関わりがあまりに深く、多岐にわたるため、どこまでが文化の影響であるかを判断するのが困難な場合が多い。いわゆるジェンダー論などはその例である。とはいえどのような文化にも個々の差異を超えたヒトととしての普遍性が存在するのも明白な事実である。

以下、ヒトの習性に関する大まかな項目を説明するにあたり、文化の違いによって異なる部分に触れない程度でまとめたい。

食性

雑食性果実、植物の、大型動物から魚介類までと幅広いものを利用する。これは、高い知能や文化的な情報の蓄積によるところが大きい。特に、動物性の食料の利用はサル類の中では抜きん出ている。しかし、多くのサル類に見られるような昆虫などの小動物を利用することは多くなく、より大型の哺乳類を捕獲すること(狩猟)、及び魚介類を利用すること()が目立つ。特に大型の哺乳類も、集団で狩りをすることによって捕らえることが可能であった点は注目に値する。

いつから始まったのかは定かではないが、かなり古い時代から、野生のものを採るのではなく、食料を自ら育てること、つまり農耕牧畜が多くの地域で行われるようになり、各地で地域に合ったさまざまな形の農業が発達した。現在では、食料は大部分がこれで賄われている。

また、調理の技術は当初においては摂食可能な対象の範囲を大きく広げ、後には単なる食料ではなく料理という形式を産んだ。

住居衣服の使用

人類は古くよりそれなりのをつくっていたようである。洞窟の入り口付近を生活の場にしていた例は、北京原人などに見られ、長期にわたってたき火を維持していた様子も見られる。その他、動物のや皮で作られたテント様の住居なども知られている。いずれにせよ、何らかの屋根のある部屋を作るなり、既存のものを利用するなりしていたようである。これがいわゆる家、住居の始まりになるものと思われる。

また、これは住居以上に歴史をたどりにくいが、体を何かで覆うことも、ほとんどの地域で見られる。いわゆる衣服である。これを、人の体が毛で覆われていないことから発達したと見るか、衣服の発達によって毛がなくなったと見るかは、判断が分かれる。しかし、それがかなり古い時代に遡ることは、衣服に付くシラミコロモジラミとして頭髪に着くアタマジラミとの間に亜種のレベルでの種分化を生じていることからも想像される。また、その発達がヒトの分布拡大に役立ったのは間違いあるまい。

現在の世界では、いわゆる裸族と言われ、衣服を着用しないように言われる民族もあるが、全く何一つ着用しない例はまずない。体に着用するものには、体を保護することを目的にするものと、装飾を目的にするものとがあるが、両方を兼ねる場合も多い。体を保護する目的のものでは、まず腰回りに着用するのが最低限であるようである。装飾にはさまざまなものがあるが、手首や首など、細いところに巻くものがよく見られる。装飾目的としては、体に直接に描き込んだり(入れ墨)穴をあける(ピアス)などの加工も多くの民族に見られる。特に、頭髪の上に何かを突出させる形の装飾は、非常に多くの民族に見られる。

道具の使用

上記のようなものを含めて、生活のためにさまざまなものを加工して利用する、広く言えば道具を使うことが、ヒトの特徴のひとつでもある。道具の使用は、長くヒトだけの特徴と言われてきた。現在では、(ヒト以外の)サルなどにも若干の例が知られる。しかし、道具を作るための道具、いわゆる二次的道具の使用は、ヒトだけに知られている。また、の使用もヒトの文化の発達を支える重要な要素である。

社会生活

一般には集団をつくって生活している。雌雄成体と子供からなる集団(家族)を構成単位とし、それが集まった集団を構成するのが基本だが、必ずしもこの形になるとは限らない。集団(社会)の構造にもさまざまなものがある。

情報伝達

ヒトの集団内における情報伝達は、身振り手振りや表情によるものと、言語を介したものがある。

集団内の個体間の伝達方式として言語を用いるのは、ヒトの重要な特徴である。サルやクジラでは多彩な発音を用いて意思疎通を行う例も知られるが、言語という形をとるものはない。逆に、現在知られている限り、これまで世界の民族において、何らかの言語を使用していなかった民族の例も知られていない。言語は単に情報伝達のしくみであるだけでなく、楽しみ(文学など)としても、思考の道具としても用いられた。また、言語化された情報は何かの形で保存することができる(口伝文字等)から、それがヒトが歴史を持つ根拠となった。

生活環境

ヒトは、環境を作り替える動物であると言われる。これは、特に現代文明に強く見られることで、必ずしもヒト一般に適用できるとは思えないが、しかしながら、一定の住居をもつ民族は、その周囲を少なからず空き地にすることが多い。農業を行う場合は、さらに広い区域を加工する。また、作物家畜など、人為的に特定の生物を維持し、その天敵を攻撃することも多い。その他にも、ヒトの生活の場には、その住居を使用する生物(ツバメなど)、残飯などを食料とする動物(ゴキブリなど)、吸血性の昆虫(ノミなど)、雑草などさまざまな特有の生物が集まっている。それらをまとめて人間生態系ということがある。

配偶行動

ヒトの形態学的特徴が他の霊長類とあまりにも異なっている原因を性淘汰に求める説も当初から存在する[1]。ヒトの性的活動は非常に活発である。ほとんど年間を通じて性交が行われ、出産の時期も決まっていない。

社会の構成はその単位を生殖の単位である成体の雌雄ペアによると見ることもできる。少なくとも、性行為は1対の雌雄によって行われるのが普通である。

雌雄個体間での配偶行動は、一般には、まず互いに知り合うことに始まり、一定の交渉を経てある種の高揚した心理状態(恋愛感情)のもとで親交を深め、性行為に至る。性交による受精の確率は必ずしも高くはなく、同一のペアの間で何度も繰り返されるのが普通である。この行為は、互いの親しみを増すはたらきがあると、一般的には考えられる。特定の雌雄ペアは一定期間持続するが、どの程度続くかにはさまざまな場合がある。

ただし、これにはさまざまな例外がある。それは民族的な違いである場合もあるが、同一の文化に属するものの中でも、実にさまざまな例外や逸脱(同性愛強姦乱交など)が見られるのが通例である。

また、そのような関係が集団の中で公的に認められ、一定の形式で維持されることを婚姻結婚と言うが、これを成立させるために、それぞれの文化において、さまざまな形の儀礼がある。しかし、これにもさまざまな例外や逸脱行為(浮気売春など)があるのが通例である。

動物における社会の構成は、その動物の生殖にかかわる雌雄のあり方に大きく影響されるから、ヒトの場合に、本来はどのような雌雄関係であったのかを論じるものは多く、諸説入り乱れて定説はない。現実の様々なヒトの社会を見れば、一夫一婦制一夫多妻制一妻多夫制のいずれも、その実例がある。一説には、富裕な社会では一夫多妻に、貧しい社会では一妻多夫になる傾向があるとも言う。また、同一社会でもその階層などによって異なる形が見られることも珍しくない。さらには、ハーレム乱婚も散見される。確実に言えるのは、これらのどれかを持つ、あるいはそれらのある組み合わせを持つヒトの社会が実在すること、そして、おそらくどの場合も、その内部に多くの例外や逸脱が存在していたであろう、ということである。

分布と多様性

現在では航空機などの遠距離交通が発達し、また住居環境を調節する技術も発達しているので、この点についての考慮は無意味に近いが、より原始的なものであっても、安定的で確実な遠洋航海技術が発達する以前から、ヒトの分布はほぼ全世界にわたっている。人類の祖先はアフリカ中部に発生したものと考えられ、その進化の過程を通じてほぼ世界に広がっていった。大陸と主要な島嶼のうち、ほぼ唯一の例外として、南極大陸には定着しなかった。また、最も遅く到達したのはニュージーランドではないかと考えられる。それ以外の地域においては、寒帯から熱帯にわたる極めて広範囲の分布域をもっていた。サル目は基本的に熱帯の動物であり、ヒト以外では本州のニホンザルが最も北方に位置する分布であることを考えると、格段に広い。

これは、ヒトが衣服や住居を用いて身を守る方法を発達させたためでもあるが、体の構造そのものも、寒冷な気候に対応できたためと考えられる。たとえば、ベルクマンの法則の通り、その大きい体は体温を維持するには有利である。尾がなく、耳殻が短くて厚いこともこれにかなっている。また、高く盛り上がった鼻は、鼻腔を長くすることで、冷気を暖めて肺へ流し込むことができるようにする、寒冷な気候への適応であるとの説もある。

このような分布域の拡大に従って、形質も多様化したと考えられ、さまざまな変異が見られる。それらの主要なものを分類して、人種と名付けている。しかし、その区別や範囲が客観的に明確でないことが多い。また、どのような人種の間でも、生理的な意味における生殖的隔離は認められない。前述のように、現在の人類はすべてヒトという単一のに属するものと考えられ、人種の差は種を分かつものとは見なされない。つまり、生物学上は、人種というものは亜種以下の段階の差に過ぎない。このような広い分布域を持ちつつ、完全な種分化が起こっていないのは、他の動物には例が少ない(広い分布域を持ちつつ、これほどに種分化が起こっていない動物の多くは、家畜など人間に飼育されている動物であり、種分化ではなくとも亜種レベルで異なることがほとんどである)。

現在では、世界的な交通手段や流通の発達に従い、新たな人種の混合が進んでいる面も見られる。

関連項目

脚注

  1. チャールズ・ダーウィン『人間の進化と性淘汰』。同書ではヘラクレスオオカブトその他、形態学的に極端な種は性淘汰によって進化したと主張する。ただし、この学説は反証可能性がないため厳密に科学的とは言えない

参考文献

  • 北原靖子、渡辺千歳、加藤知佳子 編 『ヒトらしさとは何か』ヴァーチャルリアリティ時代の心理学 北大路書房 ISBN 4762820512
  • 中西真彦、土居正稔 『人間の本性の謎に迫る』「人間とは何か」を科学、哲学、宗教の目で探る 日新報道 ISBN 4-8174-0607-0
  • 日高敏隆 『人間は遺伝か環境か?』遺伝的プログラム論 文春新書 ISBN 4166604856
  • フランス・ドゥ・ヴァール 藤井留美 訳 『あなたのなかのサル』霊長類学者が明かす「人間らしさ」の起源 早川書房 ISBN 4-15-208694-7
  • 川田順造 編  大貫良夫、尾本惠市、佐原真、西田利貞 『ヒトの全体像を求めて』21世紀ヒト学の課題 藤原書店 ISBN 4894345188